築地の海へようやく舟を出すことができて、サテいよいよ魚屋さんとしての腕を磨いていかなくてはいけません。
築地には魚の仲買人の店が1000軒以上もあります。並べられた魚はどれも活きがよさそうで、仲買人の誰もが自信にあふれ迫力満点で、目を合わすことができませんでした。
オヤジからは「好きなものを買ってこい。ただし、隅から隅まで見てからにしろ」と言われていたので、今もそうですが、全てのお店を見るようにしています。その日いい魚を買おうと思って見ているので、2時間位かかります。
初めの頃、ともかく“安い”ものを買おうと思っていました。「築地にあるものはいいものなのだ」と思っていたので良い+安いと思って、安いものを見つけた時は嬉しかったものでした。
それでも、魚の色つやや身のハリ具合、目の輝きなどを見たり触ったりし、特に腹の部分を触ってみると鮮度がわかるのです。「今日の仕入れはうまくいった、ヤッター!」と車を走らせ店について並べた魚を見て、オヤジはしぶい顔をしています。
「アレッ!エーッ?」って思いながら夕方になると、並べている魚のどれもがダラーッとして肌つやもなく、腹を触ってみるとグニャッとして、なかにはお尻の方から臓物がとびだしているものもあります。
とても刺身用として売れる物ではないのです。お客さんから刺身を頼まれていたサバが〆められず、謝ったことも何度もありました。
そんな事を何度も何度も繰り返していく中で、「並べられた魚を見る時、漁の仕方や魚の運び方も見抜いていかなくちゃダメなんだ」ということがわかってきたのです。
漁の仕方としては大きく4つあって、巻き網漁→定置網漁→引き縄漁→1本釣り漁があります。
→の左から右に行く順番で、魚は傷ついたりつぶれたりすることなく収獲されます。
運び方は、水氷箱→下氷箱→活き箱の3つがあり、これも→の左から右に鮮度が保たれているのです。
大量に獲って水氷にガーッと入れて運べば、それは一匹あたりの単価は安くなります。ただし、魚の身は潰れ臓物は寸断され、鮮度の劣化は急速にはじまります。
それ以外にも“昼どり”“朝どり”といって、漁をした時間帯で魚の脂ののりや身のゆるみが異なってきます。
更に、これはやってはいけない事だと思うのですが、水氷の中にミョウバンを入れると、氷点が下がって魚の身がしまって“鮮度抜群”に見えるのです(これにはよくひっかかりました)。
もう一つよく見抜かなくちゃいけないのが“止め物(ヒヤモノ)”と言われている物で、天候や相場をにらんで漁港や築地の仲買のところで“止め”てあって出してきたものです。
仲買人は勿論そんな事は教えてくれませんから、「安いよ!安いよ!」という誘惑に負けそうになりながら、朝2時間毎日毎日が「ショーブダ!」の日々なのです。
自分では90%位の仕入れはうまくいっていると思える毎日になったと、秘かに自負しているのですが・・・・。
『魚屋さん海野君のおいしい魚が届くまで物語』 第2章【築地の海は広く深かった】
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